前回のコラムから具体的にボイストレーニングをする際に気をつけるべきポイントについて書かせていただいているのですが、今回はボイストレーニングを行う上で、真面目な生徒さんほど陥りやすい罠について書かせていただきます。
一生懸命練習しているのに、歌を上達させる上でかえって逆効果になっていたなんて悲しすぎますよね。
なので注意深く読んでみてください!
これはほんと、ボイストレーナーをしていて強く感じます。
しかも、「歌が上手くなりたい!」という気持ちが強く、よく練習をしてくる真面目な生徒さんほど陥りやすい症状なので書かせていただきますね。
ボイストレーニングを進めていくと、
「喉の詰まりを解消する為に、上がりすぎている喉仏を下げましょう!」とか
「声帯を薄くして、輪ゴムを引っ張るようなイメージで高音を出しましょう!」とか
「口腔を広げて声が共鳴する空間を確保しましょう!」とか
「一定に息を保つためにお腹でしっかり支えましょう!」など
多種多様な注文が追加されていきます。
そんな中、一生懸命練習しようとして、必要以上に力を入れ過ぎてしまったり、余計な部分に力を入れてしまい、かえって声の出が悪くなってしまう生徒さんもいます。
確かに、最初は感覚を掴むために大げさに力を入れる事も必要な段階もあるのですが、必要以上に力を入れ続けると、体に緊張や強張りが走り、障害になってしまったり、声のバランスが悪くなってしまうのです。
歌をうたう上での理想的な状態は、必要最低限の力を使い、余分な力が入らず体感的にも声が楽にでている状態を指します。
ボイストレーニングを始めたばかりの頃や、新しい発声法を練習している時は仕方ないと思いますが、ある程度練習を積んできたら「意識をする」程度に留めて、徐々に余計な力を抜いていく事が重要になるのです。
このコラムを読んで下さっている方はすでに理解していただいていると思うのですが、歌というのは様々な要素で成り立っています。
そして、その中の「声を出す(発声)」に特化したボイストレーニングという狭い領域でさえも、様々な要素が絡み合い、多種多様なアプローチがあるのです。
なので、自分のアンテナにひっかかった一つだけのトレーニングを集中してやる事はベストとは言えません。
(※例えば力強い高音を歌えるようになりたいから、強い高音発声を鍛えるトレーニングばかり練習するなどです。)
むしろ、集中してやりすぎる事は逆効果につながる事も多くあります。
それは、歌というのはバランスがとても大切だからです。
トレーニングには一つ一つ狙いがあり効用が違います。
例えば、高音を出す時に力が入りすぎる症状を持っている人にはその力みを軽減させるために声帯の閉鎖を緩めたり、喉仏の位置を落とすトレーニングをする場合があります。
逆に、同じ高音の発声に問題がある人の中でも、高音は出せるのですが、声にハリがないという人もいます。
そんな方は先ほどの方とは反対のアプローチ、声帯の閉鎖を強めたり、一時的に喉仏を上げて発声するトレーニングを指示する場合もあるのです。
それらはあくまで歌う上で良いバランスに持ってくるために、その人その人の状態に合わせて一時的に指示しているトレーニングなのす。
必要以上に集中して練習しすぎると、声帯の閉鎖が緩まりすぎて声がカスカスになってしまったり、逆に声に詰まりを起こしてしまう場合があります。
指示されたトレーニングを行い、良いバランスになった状態でそのトレーニングを辞め、さらに高度なトレーニングに移行する必要があるのです。
これは、本やインターネットなどで断片的にボイストレーニングを学び、自己流で練習している人にも同じ事が言えます。
例えば、リップロールが高音発声を鍛えるトレーニングだと本やインターネットで知ったとします。 リップロールの練習は大きな利点があるのですがそれだけ練習していても歌は上達しません。
リップロールを行い、どんな音程でも力まず、一定の力の入れ具合、音量を保ちながら発声できるようになった段階で次のレベルのトレーニング移っていく必要があるのです。
なので、トレーニングは一つの事にこだわり過ぎず、その場その場で必要な内容を多角的に進めていきましょう!
1982年(昭和57年生まれ)
アーティスト活動を続ける中、日本・海外流問わず様々なジャンルのボイストレーニングを習得する。
その後、日本では最大数のボイストレーナーを抱える大手ボーカルスクールの統括として働き、現場で生徒さんにボイストレーニングを教えるボイストレーナーへの指導も行う。
今まで指導してきた生徒数は300人を超える。